2023年10月19日にグランドオープンした「フォレストゲート代官山」。東急東横線代官山駅から向かうとまず迎えてくれるのが、緑と食とサステナブルの融合をテーマとした複合施設を象徴する「TENOHA棟(以下、TENOHA代官山)」だ。
2024年9月時点で全国に6箇所展開する「TENOHA」は、利用者にサステナブルな取り組みとの出会いや情報を提供し、新しいライフスタイルを提案する拠点。岡山県西粟倉村の間伐材を用いて建てられたTENOHA代官山は、代官山ローカルの魅力と循環をテーマにしたカフェ、ワークショップやマルシェが楽しめるイベントスペース、ショップなどから構成されている。




TENOHA代官山ではサーキュラーやサステナブルについて考え、日常生活に落とし込んでいく「CIRTY(サーティー)」プロジェクトを中心として、日本各地のプレイヤーと連携した活動を通じて循環型社会の実現を目指してきた。
オープンから一年が経つなかで、TENOHA代官山には想いを共にする仲間が集い、トークイベントや勉強会、マルシェ、ワークショップなど多彩な取り組みが行われてきた。TENOHA代官山に集う人々は、どのような想いに共感し、これから何を目指していくのだろうか? 2024年10月に開催されたアニバーサリーレセプションの様子とともに、開業からの一年を振り返っていく。
代官山から広がるサステナブルの輪

まずは東急不動産の花野氏からゲストへ感謝の言葉が贈られた。「TENOHA代官山を含むフォレストゲート代官山は、構想から10年以上をかけて完成した施設であり、その一周年を素晴らしい仲間と一緒に迎えられたことを嬉しく思います。利用者やイベント主催者、運営関係者を始め、ビジネスとしても街のコミュニティとしても盛り上がってきたことを感じています」。

花野氏は開業からの一年を振り返りながら、2024年8月に代官山商店会と共催した「代官山爽涼祭」、同年10月に実施されたアートと音楽の都市型フェスティバル「DEFOAMAT」に言及。TENOHA代官山が展示や交流の拠点として利用され、より地域に色濃く根付き始めていることを喜んだ。
さらに、2024年11月には「エル・グルメ 旅するグルメフェス 2024」も開催され、フォレストゲート代官山における「食」の存在感がより高まっていく。一年を通じてロスフードを使用したジェラートや、屋上菜園で採れたハーブや野菜を使ったヴィーガンフードを提供するTENOHA代官山内の「CIRTY CAFE」は、そんな食のあり方を身近に体験できる場所だ。生ごみは建物屋上のコンポストで堆肥化するなど、サステナブルな食との付き合い方を提案し続けている。


最後に花野氏は「私が考えるサステナブルとは、リサイクルやリユースを追求するだけでなく、事業やパートナーとの関係を継続していくことも含まれます。今日お集まりいただいた方々の顔ぶれを見て、改めてこの輪をTENOHA代官山から広げ、さらに発信していきたいと感じました」と挨拶を締め括った。
買い物したり、対話をしたり。プレイヤーたちと一周年を振り返る
ここからは、イベントに集った関係者とともにTENOHA代官山の一周年を振り返っていく。
TENOHA代官山では2023年12月から「買うサーキュラー」をコンセプトとした「CIRTY MARCHÉ(サーティーマルシェ)」を定期開催し、モノの売り買いのみならず、出店者同士の交流会も実施し、コミュニティの基盤を築いてきた。楽しみながら、知り、気づき、行動する。そんなきっかけづくりを目指したマルシェは、今やTENOHA代官山に欠かせない存在となっている。

マルシェからさらに一歩踏み込んだ「CIRTY SKOLE(サーティースコーレ)」は、聞くことや話すことを通じて学びを深めていくイベントだ。気軽に楽しくサーキュラーエコノミーを知れる機会として、ジャンルや年代を超えて多くのゲストが参加してきた。
たとえば2024年2月に開催された「チョコレートから広がる推し活の世界」では、世界的に価格が高騰し、生産現場の課題もあるチョコレートをどう捉えるかなど、チョコレートを入り口として社会課題についてトークを実施。東南アジアでカカオを開発するフーズカカオの福村瑛氏と、フォレストゲート代官山内に店舗を構えるLA BASE de Chez Luiの酒井將駄氏のトークを通じ、参加者に多くの視座をもたらした。

2024年3月に実施した第3弾では、食料の自給生産を行いながら自分のミッションを追求する「半農半X的ライフ」を送るゲストを迎えた座談会を開催。都市生活と一次産業の両立についてのヒントが多く語られた。
レセプションにも参加した合同会社「土とデジタル」の小川大暉氏は、東京と長野県上田市で二拠点生活を行う実践者だ。罠をシェアして狩猟した獣の肉を食べる「罠ブラザーズ」事業について「鹿による森林や農家の被害が増えることへの対策として、罠オーナー制度を導入しました。オーナーは都市にいながら猟師の視点で狩猟を体験し、最後には鹿肉も味わえます。駆除後に食用として利用される鹿は、10%とまだまだ少ないため、オンラインでのやりとりや通販を通じて罠や鹿肉の利活用を広めています」と説明。

続いてマイクを手にしたのは、自給自足ならぬ供給共足を掲げる「生活共同体TSUMUGI」の橋香代子氏だ。生産と消費が乖離している現状に課題感を抱き、都市に住みながら生産に近い「生産消費者」となるための取り組みを進めている。
「コミュニティのメンバーで畑を耕すことから米と味噌を作ったり、東京各地の屋上で育てたハーブを用いたハーブティを企画したりしています。渋谷圏内ではTENOHA代官山や原宿キャットストリート、下北沢の『シモキタ園芸部』などとも連携しながら、東京生まれのハーブティをお届けできそうです」と語る橘氏。100%東京産のハーブティは、CIRTY CAFEでも取扱を予定しているという。
空間を活用した様々な体験型イベント
TENOHA代官山では、定例イベントにとどまらず、さまざまなポップアップイベントやワークショップも積極的に開催している。レセプション参加者が紹介した企画から、3つをピックアップしてお伝えしよう。

創業四年目の「Free Standard(フリースタンダード)」は、ブランド公式のリユース品を販売するポップアップを展開した。同社は商品の下取りからメンテナンスを経て、オンライン/オフラインの両方でプロダクトの循環を生み出している。TENOHA代官山で行われたポップアップでは、品質の高い商品を長く使うというコンセプトがTENOHAのメッセージと共鳴し、多くの来場者を集めた。さらに、TENOHA代官山の特徴的な空間にも、新たな可能性も見いだされたという。

「PETIT BATEAU(プチバトー)」は、2024年8月12日から3日間にわたり、TENOHA代官山でサマースクールを開催した。小学生の自由研究に悩んだ担当者の経験をもとに、同社が推進しているサステナブルな取り組みをテーマにした、多数のワークショップを実施した。
ロスフラワーの活用や風力・太陽光発電体験、マイクロプラスチックの体験学習など多彩なテーマは、PETIT BATEAUと関わりあるパートナー企業も交えて行われたもの。サステナブルな取り組みを楽しく体感できる機会として人気を博し、再生エネルギーから食までつながるTENOHA代官山ならではの魅力が凝縮されていたという。

2024年6月にはパリオリンピックに向けた特別企画として「TEAM JAPAN ミサンガをつくろう」が開催された。「STORY&Co.(ストーリーアンドカンパニー)」協力のもと行われた本企画は、選手が着用するジャージの製造過程で生じた端材を活用し、ミサンガを制作するアップサイクルプロジェクトだ。完成したミサンガのうち一つは選手に贈呈され、もう一つは参加者が持ち帰るため、アップサイクルが一度限りの体験ではなく、日常生活に根ざしたものとなることを実感する機会となった。
フォレストゲート代官山やTENOHA代官山には、多くの地元住民が集まり、ホスピタリティ豊かなスタッフたちとの間で暖かな雰囲気が醸成されてきた。サステナビリティの推進は、一社だけで達成できるものではない。イベントを企画した参加者たちは、こうしたコラボレーションの継続によって、地域や企業が繋がっていく価値を感じたという。
TENOHAを軸に、都市と地方を繋いでいく2年目へ
多くの参加者で賑わったアニバーサリーレセプション。サステナブルなフードを味わいながら、この1年間の取り組みを振り返る時間はあっという間に過ぎていった。最後に、TENOHA代官山に長期間にわたって関わる2名がこれからの展望を述べた。


TENOHA代官山の企画から携わった「RGB」の八島智史氏は、今後の取り組みについて「TENOHAは全国6ヵ所に展開しています。この1年で代官山で育まれたコミュニティを基盤に、全国のTENOHAとも連携を強化することが2年目の目標。地方と都市をサステナブルに結びつける活動を推進していきたいです」と、力強い意欲を見せた。

その第一歩として八島氏らは、2024年11月2日から千葉県木更津市のKURKKU FIELDS(クルックフィールズ)で開催されたイベント「able For The Future」に参加。農と食とアートが融合する複合施設の中で、CIRTYでのサステナブルな取り組みなど、TENOHAで築いたつながりを紹介し、代官山で生まれた縁が全国へと広がっていく2年目を予感させる内容となった。

閉会の挨拶を述べたのは、東急不動産の山田潤太郎氏。2020年からフォレストゲート代官山に携わり、担当から離れた現在もライフワークとして関わり続けている山田氏は「TENOHAに来るたびにたくさんの方とお話ができ、コミュニケーションが追いつかないほど。自分の家に帰ったような、共感できる志を持つ人との会話を心から楽しんでいます。渋谷エリアでの事業においても、TENOHAでの縁を広げていきたい」と述べ、会場に訪れた人々への感謝を伝えた。

多様なプレイヤーによって紡がれてきたTENOHA代官山の一年目。この場所がなければ生まれなかった縁やプロジェクトが数多くある。その種を蒔き、大きくし続けることのみならず、より多くの人たちに届けるための2年目が始まることを予感させるひとときだった。