PROJECT LIFE LAND SHIBUYA
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渋谷をグローバルスタートアップの聖地に。
本田圭佑が世界に学び、投資する未来とは

スタートアップカンファレンス「CREATE」レポート

2024.05.08

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東急不動産は本田圭佑 氏が国内スタートアップへの投資を目的として立ち上げた「X&KSK Fund」との協業により、スタートアップカンファレンス「CREATE」を開催した。2024年3月に渋谷ヒカリエホールで行われた同イベントは、国内外の最前線で活躍する起業家や投資家、行政関係者が集まり、グローバルなベンチャーコミュニティを築く契機になるものだ。

本田圭佑と藤田晋が語る「もし自分が今25歳だったら、何をする?」

本イベントは渋谷区長・長谷部健 氏の開会挨拶を皮切りに、グローバル企業のチームリーダーや起業家、キャピタリスト、クリエイターや研究者・技術者など、世界各国の様々な領域の第一線で活躍するメンバーが語り合う、7つのセッションが催された。

その中から、本田圭佑 氏とCyberAgent 代表取締役の藤田晋 氏の対談をお伝えしよう。「もし自分が今25歳だったら、何をする?」をテーマに、両者の経験を交えた起業やビジネスマインドについての議論が盛り上がった。

—「自分が25歳だった時に、今戻るとしたら何をするか?」という設定でお話しいただきます。お二人のステータスは現在のものではなく、25歳当時のものとしましょう。

本田圭佑 氏(以下 本田): 24歳で初めて南アフリカのワールドカップに参加したことが、自分の立場が大きく変わった契機でした。日本国内でもサッカー選手として認識されたタイミングなので、25歳としては選択肢が多いはず。今25歳に戻ったとしたら、もちろん身体が資本のアスリートではあるけれど、間違いなく投資をやりますね。サッカー選手として忙しくしているから、現実的にはプロのキャピタリストと組むのでしょう。

今は国内企業の事業継承が話題になっていますが、そうした会社のバイアウトにも取り組みたい。どんなプライベートエクイティファンド※が口説いても、高齢になった創業者から「金額の問題じゃない」と断られるようなケースも多いはず。そうした相手にうまくビジョンを語り、事業のプレゼンをして、バイアウトを持ちかけると思います。

※複数の機関投資家や個人投資家から集めた資金を基に事業会社や金融機関の未公開株を取得し、同時にその企業の経営に深く関与して「企業価値を高めた後に売却」することで高いIRR(内部収益率)を獲得することを目的とした投資ファンド

本田圭佑 氏 (X&KSK:Co-Founder & General Partner)

藤田晋 氏(以下 藤田): 24歳でサイバーエージェントを創業しました。インターネットバブルの全盛期で、始めれば得をするような状況でしたが、これは偶然でしたね。よく運がいいと言われますし、自分でもそう思います。今25歳に戻って起業するとしても、国内に当時のインターネットビジネスのような分野はないと思います。DXやAIは本命の産業ですが、大企業がより大きな競争力を生み出すものであって、小さなスタートアップが勃興する雰囲気は感じません。

いま25歳に戻るとしたら、まずは成長している国での起業を考えると思います。右肩上がりに会社を拡大するためには、伸びる分野をチョイスしなければいけませんから。もちろん、国内でも世界で最も素晴らしいものを作れば、世界から買いに来てもらえる可能性はあります。アニメや音楽、日本では難しいかもしれませんがリゾートやワインなど、そういった分野を探すことも選択肢の一つです。

藤田晋 氏(CyberAgent 代表取締役)
藤田晋 氏(CyberAgent 代表取締役)

—AI領域での新しい事業についてはどう考えますか?

藤田 : サッカーで言えば、あるクラブがAIで試合を組み立てられるようになれば、それだけで相当な競争力になりますよね。AIに取り組む人たちと、そうでない人たちの差が広がる現象は、あらゆる会社や分野で起こると思います。

本田 : アメリカでいくつものAIスタートアップを見ましたが、エンジニアの数からして日本とは圧倒的な差がありました。それでも、日本政府が「スタートアップ育成5か年計画」を立ち上げているのは、一番の本命、負けてはいけない領域であることの意思表示でもあるのでしょう。僕も日本でファンドを始めているし、かなり不利な状況であっても、ギブアップせずサポートする姿勢を持ち続けないといけない。

—本田さんはさまざまな事業や投資を行っています。スポーツにおいて選球眼を磨くように、支援対象を決める際に意識していることはありますか?

本田 : 創業者(ファウンダー)の人物像です。その人物が優秀なら事業領域もピボットするので、極論を言ってしまえば、最初のビジネスモデルは信用しないこともある。よく再現性を求められたり、投資の成功率を上げたいと言われたりするのですが、僕の中に感覚はあるんですけど、ファウンダーの資質を明文化することはなかなか難しくて…。いい案件、いいネットワーク、いいコミュニティだけ扱っていれば、必ずどこかで資質のあるファウンダーに出会えるはずです。

藤田 : イケてる企業のファウンダーは、イケてる企業の経営者と出会うんですよ。僕はネットビジネスの新しさで注目を浴びて、たくさんメディアに出たので大物と出会いやすかった。そこで会った人たちとは今でも仕事が続いているけれど、対照的に、よくないコミュニティでは足を引っ張りあうような空気もある。渋谷でいいスタートアップが生まれるのは、いい企業同士が自然と出会って、お互いを刺激しあっているからでしょう。

—本田さんはワールドカップでもチームを導き、日本のステージを変えてきました。チームの中心として意識していることはありますか?

本田 : チーム作りで大事なのは、簡単にできないことをリーダーが平然と口にし続けて、周りをインスパイアすることです。リーダーが小さいことを言ったり、満足してしまったりすると、組織は維持や衰退に向かっていく。できないことを言い続けて平常化させると、「無理だろう」と思っていた人たちの空気も変わり、目標に向かう雰囲気が出てきます。この空気感をいかに作り出せるかが、世界レベルで上を目指す組織には必要なことです。

藤田 : やっぱり「フカす」ことは大事ですよね。25歳の僕は知名度もないし何者でもありませんでしたが、一年後の成長を前借りして「できます!」と意気込んで取り組んでいました。24歳で会社を作って、26歳で最年少上場すると言って実現し、時価総額も10兆円を目指すと言って。時価総額はまだ達成できていませんが、「社長が言ったからそうなるんだろう」と周りもついてきました。そうしたら、周りの経営者も「宇宙一の会社を目指す!」というように被せてきて、フカし合戦のようになりました。今の立場では株式市場との関係なども考えないといけませんが、出始めは大きなことを言った方がいいですね。

本田 : 何者でもないときにこそ、大きなことをいうのは重要ですよね。何者でもないのに謙虚だったら、どうやったって目立ちようがない。

藤田 : 今25歳に戻るとしても、第一歩を踏み出すための元手が欲しい。当時はネットビジネスが注目されてメディアに取り上げられましたが、今の話題の中心はSNSで活躍している人達だから、SNSを使って有名になって、注目されることから始めたい。会社を起業しながらでも良いのですが、何者でもない人はまず注目されて価値ある人間にならないと、次に進めないと思います。

東急不動産の渋谷におけるまちづくりとスタートアップ支援

黒川泰宏氏 (東急不動産株式会社 都市事業ユニット 渋谷事業本部 執行役員本部長)
黒川泰宏 氏 (東急不動産株式会社 都市事業ユニット 渋谷事業本部 執行役員本部長)

「CREATE」のメインスポンサーを務める東急不動産からは、渋谷の再開発に深く関わる黒川泰宏 氏が登壇。スタートアップの勃興は全世界的な動きだが、日本の渋谷という街で取り組むことの必然性や強みについて、東急グループの戦略とともに紹介した。

「東急不動産は広域渋谷圏で、オフィスや商業施設、ホテルや住宅など多様なアセットを保有しているが、さらに街の魅力を伸ばすため、リアルな場所を活用したサービスにも取り組んでいる。新しい体験や事業が創造される仕掛けを行い、世界中から共感を得られるように発信し、さらに多様な人々や企業が渋谷に集積していく。こうして多彩なパートナーシップを構築し、さらなる創造へと繋げ、循環が生まれ続けるまちづくりを目指している。

スタートアップ共創活動も、こうしたまちづくりの取り組みの一つ。『渋谷ではじまる。世界へつながる。』をコンセプトに、広域渋谷圏を国内外のキープレイヤーが集まる場所として、グローバルに通じるスタートアップの聖地にしていきたい」。

東急不動産はスタートアップ支援のために、連続的な「3つの取り組み」を行っている。

まずは育成・成長を促す「場所の提供」。VCとスタートアップの共創を生むスモールオフィス「GUILD」シリーズを始め、交流を促すサウナや、テストマーケティングを行える場所を手がけてきた。エッグフォワードと共創し渋谷サウナスで開催した世界初のサウナ×ピッチイベントも、記憶に新しい。今後も渋谷のスタートアップエコシステムを活発化させる会員制の新しいコミュニティスペースや、ディープテック・スタートアップに向けたPoC可能なウェットラボの開業も予定している。

続いて、VCへの出資、CVCからの出資による「資金の提供」。すでに国内外のVCに14件のLP出資を実施し、50億円のCVCファンドも組成しており、インパクトのある金額が動いている。

最後に、海外のVCやアクセラレーター、大学と組んだアクセラレーションプログラムの実施や、国内産官学連携イベント開催等による「成長支援・事業共創」の推進だ。シリコンバレーに本拠点を置くPlug and Play JAPANと連携し、渋谷で実施したアクセラレートプログラムには、延べ900社以上が参加してきた。また、マサチューセッツ工科大学(MIT)の産学連携プログラム (MIT ILP)との協業による、「Shibuya Deep-tech Accelerator(仮称)」を、「Shibuya Sakura Stage」内に2024年度に開業する。この場では、ディープテック・スタートアップ向けのアクセラレートプログラムを提供する予定で、日本の高い技術力を持ったスタートアップを世界へ羽ばたかせ、また、世界中のスタートアップに対し日本進出サポート等を実施する。

黒川氏は「こうした国際基準の支援を提供することで、渋谷のスタートアップエコシステムのグローバル化を加速させていく。『CREATE』は世界最高水準を学ぶ交流の機会だが、今後もこうした場を渋谷で継続的に創出していきたい」と展望を述べた。

スタートアップ飛躍の鍵、政府の育成5か年計画

日本政府は2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を策定した。これは2027年度に国内スタートアップへの投資額を10兆円規模にすることを目指し、将来的に100社のユニコーン創出と10万社のスタートアップ創業を目標に掲げたプランで、税制や規制緩和をはじめ数多くの政策が盛り込まれたものだ。

スタートアップ育成5か年計画:一部抜粋

・スタートアップへの投資額を5年間で10倍に。
・資金面での大きな変化として、ストックオプション制度改革を行う。
・成功した投資家が再投資する際の税制優遇として、あらゆる株式の売却益を年間20億円まで非課税にする、日本版QSBSの整備。
投資主体の拡大を目指し、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や公務員共済を活用したスタートアップ投資を行う。
・人材育成の観点では、大学をイノベーションの中心にすべく、国が運用する10兆円の基金を大学の研究や人材に投資する。

国内向けのファンドを立ち上げる契機にもなったこの計画について、本田圭佑氏は以下のようにコメントした。

—「スタートアップ育成5か年計画」について、本田さんはどう思いますか?

本田 : この本気の政策が、僕が日本でファンドを立ち上げる一番大きな理由でした。藤田さんとのセッションでも「流れに乗る」ことの大切さを話しましたが、政府がここまで本気でスタートアップ支援に取り組む状況は、過去のインターネットビジネスに近い盛り上がりだと思います。また、本当にイノベーティブな会社を作ろうとすると、ディープテックやバイオ分野を筆頭に、かなりの資金と時間が必要になります。研究段階や立ち上がり期への支援や、貸付のファイナンスが強化されるのは良い変化ですね。

—現状、日本の起業家に課題を感じる部分はありますか?

本田 : 日本にはビッグマウスの起業家が少ないですね。9割の人間が出資をためらうような「アホ」がいない。みんなロジカルで賢いから上場して小さなお金は稼ぐのだろうけど、世界のトップになるような雰囲気は感じられない。上場した後の志が見えないのは、メディアや教育、歴史的な背景も関係しているでしょうが、僕は常に世界のトップを見るようにしています。二番では意味がないというマインドをいかに持てるかが大事。

本田 : スポーツ選手は世界一流を体験できるので、視座を高く持ちやすいんです。ドジャースの選手は大谷と、バルセロナの選手はメッシと一緒にプレイできるし、違うチームの選手も超一流のプレイヤーと対戦できる。これがビジネスの世界になると、上場企業のトップは雲の上の存在になり、直接会えないから視座を引き上げにくい。

特に日本はスタートアップと上場企業のファウンダー同士の交流が少ないのですが、視座の高い国では、ロールモデルになる人と話すきっかけが多いように思います。「イーロン・マスクに会えるわけがない」と思いこんだり、大企業の経営層に「スタートアップの経営者と会う必要はない」と考える人がいるのであれば問題。もし大企業の社長がCVCを率いるようなことがあれば、もちろん普通ではありえない発想ですが、新しい視点を生むでしょう。

技術立国・日本の遺伝子を渋谷で受け継ぐ

イベントの最後には、内閣総理大臣の岸田文雄 氏が登壇し『CREATE』の開催に祝辞を述べるとともに、「スタートアップ育成5か年計画」においてスピード感を重視していること、グローバル・スタートアップ・キャンパスという新拠点で世界に開かれたエコシステムの構築を目指していくことなどについて述べた。

また、日本がかつて技術立国といわれた歴史にも言及し、戦後間もない頃、多くのテックカンパニーが産声をあげ、世界に羽ばたいていったことを強調。令和6年能登半島地震の被災地で、水の循環やドローン活用など、様々な場面でスタートアップが貢献していることに触れ、こうした技術が次世代の活力になることへの期待を述べた。

岸田総理は「バブル崩壊後30年を経て、日本は着実に変わりつつある。今日のイベントが良い意味での危機感と、それを乗り越える挑戦につながるきっかけになることを期待している。日本のスタートアップのさらなる飛躍を、心から祈念し、政策から支えていきたい」と挨拶を締め括った。

スタートアップカンファレンス「CREATE」概要(2024年3月18日開催)
場所:ヒカリエホールA・B
主催:X&KSK
協賛:東急不動産株式会社
本カンファレンスでは、起業家・投資家・アーティスト・アスリートなど世界を動かす国内外のリーダー約400名が参加し、「渋谷」で世界最高を学ぶことを目的とした様々なトークセッションが行われました。また、会場内のネットワーキングスペースでは、2024年1月に発生した能登地方を震源とする地震で被災された方々を支援するため、北陸の食材を用いたフード/ドリンクの提供や食器の使用およびチャリティーを実施いたしました。

TEXT:Yoshihiro Asano/PHOTO:Shoichi Fukumori

PERSON

本田 圭祐

X&KSK Co-Founder & General Partner

X&KSKのCo-Founder & General Partner、プロサッカー選手/指導者、投資家、起業家。サッカーワールドカップにて3大会連続でゴール・アシストを達成した史上6人目のサッカー選手。ベンチャー投資においては、2016年、自身の資産を運用する個人ファンド「KSK Angel Fund」を設立し、国内外で200社以上のスタートアップに投資。2018年には俳優のWill Smithと共同で「Dreamers Fund」を設立。2024年には世界を志す日本のスタートアップにフォーカスして投資を行うVCであるX&KSKを設立。