PROJECT LIFE LAND SHIBUYA
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個性をシェアできる商店街を。
東急プラザ表参道原宿「LOCUL」の
ローファイで新しい商業モデル

渡邊 学|リアルゲイト

2023.11.15

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2023年8月にフルリニューアルされた東急プラザ表参道原宿の5階フロア、「LOCUL(ローカル)」。トータルプロデュースを手がけた株式会社リアルゲイト・渡邊 学氏に、街の文化を育てるための新しい商業モデルについて語ってもらった。

神宮前交差点角に面する商業施設「東急プラザ表参道原宿」 の5階フロアが2023年8月1日にフルリニューアルし、「LOCUL(ローカル)」として生まれ変わった。

初期投資や契約期間など出店へのハードルが高いことから、従来の街の商業施設は常に変化するトレンドや消費者ニーズへの対応が課題とされている。

そんななか、「LOCUL」は出店期間や面積、什器などを事業者の目的やニーズに合わせて柔軟に選べる出店スタイルの仕組みを構築し、さまざまな企業や個人の挑戦を後押しする施設として期待されている。

「LOCUL」フロアマップ

「街の商店街のように垣根がなく、自然と交流や助け合い、共創が生まれる場にしていきたい」

そう語るのは、LOCULのトータルプロデュースを手がけた株式会社リアルゲイト 取締役 事業本部長の渡邊 学氏だ。表参道と原宿が隣り合う「オモハラ」発の、新しい商店街のカタチを目指すLOCULの今とこれから、そして広域渋谷圏との共存について語ってもらった。

空間や街のトンマナを作るのは「人」

 ─都心部を中心に数多くのオフィス空間やワークプレイスづくりを行うリアルゲイトですが、どのような思いやビジョンを持って事業に取り組んでいるのかについて、まずは教えてください。

渡邊 : リアルゲイトは「古いものに価値を、不動産にクリエイティブを、働き方に自由を」というコンセプトのもと、主に築古ビルの不動産再生事業を手がけています。老朽化の進むビルを改修・リノベーションすることで、新たな付加価値を創出し、感性の高いクリエイティブワーカーに向けた空間を提供しています。

街に建つビルには、オーナーの思いや個性、その土地の記憶が根付いています。そこに、リアルゲイトが新たな息吹を吹き込み、「街と共存する建物」として生まれ変わらせることで、自由で創造的な空間を求めるクリエイティブワーカーが集うようになる。空間や街を作るのは「人」であり、個性的な建物を点在させることで個々の「点」が「面」になっていく。だからこそ街に活気が宿り、街と建物のトンマナが合ってくるんです。

渡邊 学|株式会社リアルゲイト取締役 事業本部長。「LOCUL」のプロジェクトではトータルプロデュース、フロアマネジメントを担当。

個性や思いが滲み出る「商店街」が着想の原点に

 ─そんなリアルゲイトが、東急不動産と共に東急プラザ表参道原宿の5階をフルリニューアルした「LOCUL」の開発を手がけたのはどのような経緯があったのでしょうか?

渡邊 : もともとは渋谷にある「ASIA BUILDING(アジアビル)」の不動産開発でご一緒してからの繋がりで、今回のプロジェクトをご紹介いただいた流れになっています。

今回のリニューアルに至ったのは、「コロナ禍で東急プラザ表参道原宿の出店テナントや人流が減少していた」という背景がありました。

そうした課題を解決するために、新たな商業フロアへとアップデートし、人が自然と集まるような空間にしてほしいという要望を、江尻さん(東急不動産リート・マネジメント)と栃澤さん(Project O クリエイティブディレクター)からいただいていたんです。当初は4階フロアをリニューアルする相談をいただいていましたが、5階フロアは自然光が差し込み、緑の景観が美しいテラスがあり、さらには6階のルーフトップテラス「おもはらの森」との接続もしやすい。こうした利点があることから、5階フロアをリニューアルすることになりました。

─「LOCUL」のプロジェクトを進めていく上で、コンセプトやディテール、目指す世界観など、どのような点にこだわったのでしょうか。

渡邊 : 栃澤さんは以前から、新しい商業施設のあり方を探っていて、さまざまなD2Cブランドやクリエイターなどにヒアリングし、可能性を見いだしていくなかで「多様な個性や世界観、アイデンティティを持った個店やブランドが出店しやすい仕組みづくり」が、ひとつの重要な問いになっていました。こういった概念的な大枠に対し、リアルゲイトが肉付けしていき、アイデアを具現化していったんです。

既存のフロアのままでは、出店に際しての賃料や初期投資がハードルになって、ある程度の予算を持つプレイヤーでなければ、気軽に出店することができない。こうした状況を打破し、独自のブランドアイデンティティを表現した個性豊かな個店やブランドでも、商業施設の一角にお店を出せる空間にしていく方向性で企画を詰めていきました。

従来の商業施設と「LOCUL」のモデル比較

渡邊 : しかし、賃料を抑えたポップアップのような形態で、単に出店の敷居を下げた一般的なものだと面白くない。そう思っていたので、さらにコンセプトやアイデアを深化させていったんです。

そんななか、ヒントを得たのは街の“商店街”でした。八百屋、肉屋、魚屋、総菜屋、豆腐屋…。商店街を形成するお店同士は垣根がなく、普段から交流が生まれていて、日常的にコミュニケーションがなされている。このように、出店者同士がお互いに応援し合い、個性や営み、人の気持ちが滲み出し、一緒にフロアを盛り上げていける形を作れたら、新しいスタイルができると考えたんです。

他方、リアルゲイトの手がけてきた不動産の中でシェアオフィスやシェアハウスはあるのに、「シェア」の要素を持ったリテール分野の不動産施設はまだない。そこに着目し、商店街とシェアの概念を取り入れ、“シェアリテール”のような今までにない新しい商業モデルのカタチを模索していきました。

体験・共感・共創が生まれる“ローファイ”な空気感

 ─従来のショップフロアとは一線を画す、「体験・共感・共創を生むコミュニケーションの場」が、なぜこの施設に必要だと感じたのでしょうか。

渡邊 : どんなに良い空間、コンセプト、商業モデルを創っても、そこに「どんな人が集うか」がすごく重要だと考えています。言ってしまえば、空間をプロデュースしてブランディングするだけでは「50%」の出来栄えなわけです。

モノづくりに携わるクリエイターやアーティスト、気鋭なスタートアップやビジネスパーソンなど、多種多様な人が集まってくる場にするためには、事業者同士の垣根を感じさせない雰囲気を醸成し、コミュニケーションや横の繋がりを生み出すのが大事だと思っていました。

通常、商業施設をビジネスの場として利用する場合、しっかりと作り込まれ、一定のルールに従って出店しなければなりません。また、どうしても高いテナント料を意識して売り上げに追われるあまり、隣人店舗をライバル視してしまいがちになります。

一方、LOCULでは「Lo-Fi Culture」を掲げ、ラフで緩やかな居心地の良さを感じる商店街のような空気感を作り、出店者同士で自然と交流やコミュニケーションが生まれる場を目指しました。お互いが共存し合い、個の強みを共有できる。単なる消費や売り買いではなく、出店者が共に支え合い、共に成長していく。このような「個」と「集」の共創モデルを体現した「シェア型リテールコミュニティ」を意識しています。

出店期間や面積などを自由に決め、ミニマム「1日1㎡」から出店できるサブスクリプションサービスを提供するほか、メンバーシッププラン(月額33,000円 税込)に加入するブランドであれば、使う什器費用だけ支払うだけで、賃料の負担なく出店が可能になっています。

「敵」ではなく「仲間」。メンバー主体でフロアを創っていく

 ─資金がなくても自分の世界観を表現したい。お客様の反応を知りたいと思うブランドには最適な環境だと感じました。現在、LOCULにはどのようなブランドやクリエイターが出店しているのでしょうか。

渡邊 : 開業時の出店メンバーは、アパレルやアートギャラリー、フラワーショップ、カフェなど、幅広いジャンルから構成されています。

サブスクリプション型のメンバーシップ登録を希望する事業者やクリエイターには、「新しいカタチの商店街を目指すコミュニティ型のリテール空間」をみんなで創っていくというコンセプトを話すようにしています。 

特に具体的な審査条件があるわけではありませんが、大事にしているのはLOCULのコンセプトを理解して、共感してくれるかどうかということです。やはり新しい試みだからこそ、フロアを一緒に盛り上げていくために、どうすればいいかを主体的に考えてくれる仲間の方が、意思の疎通や価値観の共有もしやすい。そのような観点から、LOCULのメンバーに加わりたいブランドや事業者と丁寧にお話させてもらっています。

 ─これからLOCULの認知度向上のために、リアルイベントも仕掛けていくと思います。どのような建て付けでプロモーションをしていく予定ですか?

渡邊 : 今決まっているのは、イベントスペースで映画上映のイベント「CINEMA DAY」を月2回開催していく予定です。映画を切り口に、LOCULで人が有機的につながる体験を提供できたらと考えています。

また、コミュニティメンバーが主体となって実施するイベント「LOCUL MARKET」の企画や準備を進めています。それとは別に今後コラボレーションしていきたいのは、クラフトビールやクラフトジンなどモノづくり系に携わる事業者と関わって、イベントに参加した人同士が仲良くなれるような体験を生み出したいです。

インターネットでなんでも買える時代に、その体験にはない付加価値をイベントで提供できなければ、開催する意味がないと個人的に考えています。まだ手探り状態ではありますが、コミュニティのメンバーとともにアイデアを出し合い、「見る・買う・触る」体験など、LOCULならではの面白いイベントを作っていきたいですね。

LOCUL発のカルチャーやムーブメントを届けていく

 ─業界問わず、多様なプレイヤーやショップオーナーがLOCULを起点に、新たなカルチャーを創っていくきっかけになればいいですよね。このプロジェクトを、広域渋谷にまつわるどのような人々に届けていきたいと考えていますか。

渡邊 : インテリア系の企業やクリエイターの方に入ってきてほしいです。フロアにおしゃれなインテリアを日常的に点在させることで、空間がより魅力的に洗練されていくと思っています。本気でモノづくりに情熱を注いでいたり、クリエイティブマインドを持って事業を行うビジネスパーソンやクリエイターに向けても、LOCUL発のムーブメントを届けていきたいですね。

また、今後は「コーポラティブオフィスコミュニティ」の方にも、企業の誘致ができるように尽力していきたいです。

畳の共有スペースが印象的な「コーポラティブオフィスコミュニティ」。

渡邊 : 空間の中央には掘りごたつを設け、仕事の息抜きや気分転換に使えるような工夫を凝らしています。そして縁側には座布団を用意していて、仕事の合間に気分転換したり、隣に入居する企業の人と雑談したりできるようなレイアウトにしています。

オフィス空間ではありつつも、入居者同士がユルくつながり、隣人との交流が自然と行われるなかで、思わぬアイデアやシナジーが生まれるかもしれない。そんなオフィスコミュニティを目指しています。

さらに、オフィスの外は商業施設のフロアなので、新商品やサービスの実験の場としても活用できます。いわば「インプット」と「アウトプット」の場がすぐそばにあるからこそ、クリエイティブワークやマーケティングを行うような企業にとっては最適な環境だと言えるでしょう。これからもLOCULでしかできないことや、独自の付加価値を追求していきたいと思います。

LOCUL Official HP
https://locul.tokyo/
株式会社リアルゲイト Official HP
https://realgate.jp/

Photo:Shoichi Fukumori/Text:Daisuke Kotajima

PERSON

渡邊 学

株式会社リアルゲイト 取締役 事業本部長

2010年9月に2人目の社員として入社し、創業期より企画営業部門を統括、リアルゲイトの成長を牽引。2018年3月取締役就任。事業領域拡大にともない、現在は事業本部長として事業領域全体(企画営業部門の他、設計デザイン・建設部門、クリエイティブ制作部門含む)を管掌する。

SPOT

東急プラザ表参道「オモカド」

日本のファッション・カルチャーの歴史に大きな影響を与えてきた表参道・原宿エリア。2012年からその中心地に立つ本施設には、ファッション・カルチャーの情報発信拠点にふさわしいテナントに加えて、明治神宮の森や表参道のけやき並木といった緑が多い環境を承継した屋上テラス「おもはらの森」を設置している。2024年に東急プラザ原宿「ハラカド」が交差点を挟んだ対面に誕生するのに合わせて、「東急プラザ表参道原宿」を“東急プラザ表参道「オモカド」”に改称。神宮前交差点を挟む2館が連携することで、周辺エリアのさらなる魅力向上を図る。