任天堂『ファイアーエムブレム エンゲージ』、VTuber『Hakos Baelz』『輝夜 月』のキャラクターデザイン、Ado 1stアルバム『狂言』野外広告ビジュアルなど、イラストレーションを中心に近年はアニメーション領域へも活動の幅を広げるMika Pikazo。また、株式会社ポニーキャニオンと東急不動産株式会社が取り組む新しいカルチャーの発信源をつくる共同プロジェクト「Creator’s Power Spot 原宿」にも参画している。キュープラザ原宿を舞台とした今回の展示は、同プロジェクトの第一弾、これからの時代を創るトップクリエイター達が、原宿・神宮前エリアで“遊ぶ”アートプロジェクト『Play原宿1』に位置付けられる。


また、キュープラザ原宿での個展開催に合わせて、神宮前交差点にある東急プラザ表参道原宿のエントランスがMika Pikazoのイラストによりビジュアルジャック。開催期間と合わせ約1ヶ月間掲出され、原宿の街一帯と連動してMika Pikazoの鮮やかな色彩の世界観が展開された。


「ありのままの自分」への違和感、「着飾った自分」への肯定
─まずはMika Pikazoさんのクリエイションのルーツについて聞かせてください。ブラジルで2年半ほど生活されていたんですよね。
Mika Pikazo : はい、高校を卒業してから2年半ほどサンパウロのあたりで暮らしていました。きっかけは高校生の頃に観たブラジルが舞台の映画『シティ・オブ・ゴッド』です。当時の私が暮らしていた平和で安全な日本とは何もかもが違う世界があるということに衝撃を受け、興味を持ちました。
─Mika Pikazoさんが描かれる彩度の高いビビットな色合いは、そんなブラジルからの影響もあるのかなと想像します。
Mika Pikazo : それもありますが、ブラジルに行って感じたのは、人々の考え方が多種多様で、同時にとても慈愛的であるということ。友達、家族、隣人に優しくしようというカルチャーが根底にあるというか。加えて、より良い環境や選択を求めて生きている人が多いとも感じました。自然も豊かで、日本では見ないような鮮やかな色彩の動物や植物をよく眺めていました。



─今回の展示「ILY GIRL」ですが、テーマを「闇=ポジティブ、光=ネガティブ」と銘打たれています。「人間の表と裏の感情、素の自分と偶像の自分」というキーワードもステートメントに見受けられましたが、どのようなアプローチで臨まれたのでしょうか?
Mika Pikazo : まず今回このキュープラザ原宿が展示会場に決まった時に、竹下通りやキャットストリートなど原宿周辺の道を何度も歩きながら、今回の展示をどう表現すべきかを考えました。
高円寺とか秋葉原とかサブカルチャーの街は他にもありますが、やっぱり原宿は夢を持った人がたくさん集まる印象があるんですよね。ファッションブランドを立ち上げたり、音楽をやったり、デザインをやったり。自分の生き様をスタイルとして提示していく人が多いと感じます。そして、今まさに道をつくっている世代と、それに憧れる若い世代が、それぞれのカルチャーを宿しながら街を歩いている。原宿で行き交うそんな人々と気持ちをシンクロさせながら、自分はどう見せたいか、どう見られたいか、イメージを膨らませていました。
─原宿という街から逆算してコンセプトを詰めていった部分もあるのでしょうか?
Mika Pikazo : そうですね、あえて毒々しい色を今回の展示では多用していたり。ピンクとか黄緑とか、原宿にはそういうカラーがひしめいているイメージがあったので、作品にも反映しています。できる限り「自分が持っていない色」を使ってみたいとも考えました。


─今回の展示では、重なり合うレイヤー感や“盛っていく”表現も意図的にされているかと思います。これらも原宿や渋谷の人々との親和性をイメージしたものでしょうか?
Mika Pikazo : 加工されている自分や盛っている自分を肯定したいというのは、今回の展示に込めた大きなテーマです。例えばSNSを開くと、日常がキラキラしてて幸せそうな人っていますよね。そういう人に対して「いいとこだけ切り取ってるだけでしょ」「ほんとのところはどうなの?」っていう人もいる。でも、みんな言わないだけで幸せも不幸もどちらも背負ってるだろうし、そこで日常を盛ってたとしても「別にいいんじゃない?」って思うんです。自分にとってこれが幸せだと思えることを形にしたり、発信したりすることが本当の幸せにつながることもあるはず。
─言霊のように言い続けることで、その理想の自分に引き寄せられるような?
Mika Pikazo : キラキラしてる人を見て、それに自分が何を思うか?で、その人自身の本質が現れると思うんです。
なんでもない日々を愛そうとか、ありのままを楽しもうって言える人は、そもそも他人に焦燥感とか感じないんですよね。人を見て羨んだり、自分も良く見られなきゃって気にしてしまうのは心の中で何かを求めているからであって、私はそれは健全だし全然いいと思う。
─「ありのままの自分で」というメッセージは世の中で使われがちですけど、正しすぎるゆえのプレッシャーや居心地の悪さを感じる人もいそうですよね。
Mika Pikazo : ありのままの自分を見せる必要なんてないんじゃないかと思ってます。着飾ること、盛ること、加工して自分をキラキラさせることっていうのは、私は現代における面白さや幸せの一つだと思ってます。自分に嘘をついてしまう瞬間って誰しもあると思うし、その嘘に自分で引っかかったり気になったりする感覚の方こそを大事にしたいというか。
本当にありのままの自分なんて、そもそも存在するのかなとも思います。

デジタルとアナログが融合するインスタレーション
─今回の展示はデジタルで描かれたイラストをベースにしながら、物理的なオブジェクトと掛け合わせたり光のライティングを活用されていたりと、まさに空間全体を使ったインスタレーション作品だと感じました。
Mika Pikazo : イメージとしては、音楽のライブ体験のような密度を表現しようと思いました。音楽って曲はもちろん、ジャケットのアートワークや広告が世界観と連動していて、ライブでは映像や照明の演出が組み合わさって、それを観るオーディエンスも含めてひとつの空間が成り立っていますよね。そのミックスされた表現に面白さを感じると同時に、イラストを発信するだけでは到達できない領域への悔しさをずっと感じていて。
Perfumeの演出をされてるライゾマティクスさんや、チームラボさんのような空間表現が私は好きで、イラストやキャラクターだけで完結するのではない、テクノロジーや他のクリエイターとのコラボレーションでつくりあげる空間を今回は目指しました。音楽や映像のように交じり合いながらつくる面白さを今後はもっと極めたいですね。

─これまでもオンライン・オフライン、企業とのコラボレーションも含めて様々なアウトプットをされていますが、このようなリアルな展示会場ならではの面白さとはなんでしょうか?
Mika Pikazo : 展示会でしかできないアイディアと表現ってありますよね。連作みたいにストーリーで順序立てて作品を伝えることができるのも大きな魅力です。展示はオンラインの発信とは比べものにならない労力と時間がかかるんですけど、やっぱりやると楽しいですし、描いたキャラクターたち一人一人に愛着が持てます。
私の好きな音楽や映像のように、展示は試行錯誤の余地が多くありますし、そうやってつくり出した場所がまた自分のインスパイアとして返ってくる感覚もあります。
─今回は会場に設置されたディスプレイを通して、会期中にライブペイントが配信されていましたね。会期が後半になるにつれて、展示作品の数も増えていきました。
Mika Pikazo : 会期が始まる10日前ぐらいに、つくりたかったものがどうしても間に合わず、会場の壁の一部が空いてしまって。どうしようかと考えた時に、会期の一ヶ月を通して毎日描いていくことを決めました。モニターを通して作画する手元を配信していたのですが、結果的に来場する方とリンクできている感覚も生まれました。壁が日に日に絵で埋まっていくことで、展示空間が違う様子になっていくのも面白かったです。
正直にいうと毎日描くのは大変で、途中でネタ切れにもなったりもして…。でもそんな自分に怒りを持ち、それを燃料に新たなアイデアが浮かんだりもしました。普段は制作工程をおおっぴらに見せたりもしないので、荒削りの自分をさらけ出す初めてのパフォーマンスになりましたが、やり切ることができて本当によかったです。


─描かれてるモチーフは若い女の子がメインですが、やはりそういう世代に届けたいという気持ちもありますか?
Mika Pikazo : 今までは20代の中で自分が感じてきたものを作品に落とし込んできましたが、この会期中に私は30歳の誕生日を迎えて。改めて、自分と違う年代の人がどのように見て、どのように感じてくれるかを考えました。
私は10代の頃に触れた先人たちのクリエイティブに大きく影響を受けたので、今の若い子に作品が届いてほしいという気持ちはやっぱり強いですね。昔の自分が作品から勇気をもらえたからこそ、私の作品が誰かの何かのきっかけになれば、そんなに嬉しいことはないです。
─展示を振り返って、原宿でやって良かったと感じたことはありますか?
Mika Pikazo : 今の自分にとって原宿はただ好きな街というだけではなく、「自分にできる表現を最大限にやり切った街」になりました。
あと何度も足を運んで思ったのが、シンプルに原宿はすごく楽しいなって。展示が終わって帰る時に、何気なく辺りをプラプラ散歩しながら「このあたりに自分のスタジオをつくりたいな」とか考えてました。やっぱり元々、親や友達と遊びに来てた街だったので、そこにいながら表現ができたっていうのは嬉しかったですね。展示が終わった今でも原宿にくるとちょっと涙ぐんでしまいそうになります。大好きな街ですね。

テクノロジー×街で拡張するキャラクターの可能性
─今後の表現活動でチャレンジしてみたい手法や媒体はなんでしょうか?
Mika Pikazo : インスタレーションはもっとやっていきたいですし、映像を使ったイマーシブな表現にも挑戦してみたいです。音楽・映像と、イラスト・アニメーションをさらに融合させるアイデアもたくさん湧いています。
また、作品と来場者の距離感を追求した空間づくりをもっとしたいと、今回の展示で感じました。デジタルのイラストの場合、私はスマホやパソコンで見た時の絵が一番綺麗だと思ってるんですが、それをリアルの展示に落とし込むということは、その現場でしか体験できない価値や意味がないといけないなと。
あと、展示会っていうもの自体がやっぱり基本的に期限付きじゃないですか。会期が終わったら、なくなってしまうという。その点に関しても、デジタルならではの拡張の余地がある気がしています。そういったものをいろんなスケールやテーマでやりたいし、経験を積みたいです。
─現実の街を舞台にした表現もやってみたいと感じますか?
Mika Pikazo : それはぜひやりたいですね。私は海外のバンド、Gorillaz(ゴリラズ)が大好きなんですけど、架空に存在するキャラクターを現実に存在させるというクリエイティブにすごく可能性を感じていて。そこに自分の創作の原点があるともいえます。
ポケモンGOもキャラクターを現実世界に呼び寄せたいい例ですよね。ただARというだけではなくて、街のこのスポットに行くとこのキャラクターと遭遇できるという。キャラクターと出会うための新しい手法や表現は、今後模索してみたいですね。

─特に渋谷や原宿はメタバースを活用したクリエイティブが積極的に実装されているエリアなので、街全体が展示の舞台となるような表現も今後は期待できそうですね。
Mika Pikazo : ビルの上にキャラクターがいるとかでも面白いし、ディズニーの「タートル・トーク」みたいなキャラクターの喋りや動きと人が同期できる表現にもチャレンジしてみたいです。日本は漫画、アニメ、ゲームで素晴らしいクリエイティブがたくさんありますが、キャラクターを活かした体験というのはまだまだ拡張できる気がしています。自分自身でも編み出したいですし、日本から海外に発展していったら素敵だなと。奇想天外なアイデアをどんどん生み出したいですね。
─キャラクターとの双方向でのコミュニケーションができる展示、面白そうです。メタバースでもあり得ますし、近年登場している肉眼で見れる3Dホログラムとも相性が良さそうです。
Mika Pikazo : 2017年にVTuberの輝夜月(かぐや るな)のキャラクターデザインをしましたが、その頃はまだVTuberという存在自体が新鮮で、すごい面白いと感じたんですよね。新しいカルチャーが生まれてる!って感じで。今はファミレスに行けばロボットが配膳してくれるような時代ですし、キャラクターが完全に自由意志で話したり動いたりという未来もそう遠くはないはず。それを私は見たいし、出会いたい。キャラクターの進化も興味深いし、それに対して人間の行動・思考がどうなっていくのか見てみたいです。
─先端テクノロジーにはかなり感度を高くされてるんですね。
Mika Pikazo : やっぱり現代で面白いことをやってみたい、表現の再現性を高めたいとなると、絶対にテクノロジーの話になりますよね。どういう機材を使うといいかとか、どういったものなら自分で動かせるのか、それがどういう反応を生むのかとか。技術との掛け合わせでどのような表現ができるかは常に考えたいし、組み合わせの可能性は無限だと思っています。

─最後に、今回の展示「ILY GIRL」を総括して、ファンや読者にメッセージがあればお願いします。
Mika Pikazo : 私が生きてきた平成から令和は、常に社会が右肩下がりで暗くなっていると言われがちです。でも私は不況の時代だと言われても、「そんなことない、私は今生まれて良かった」と思っているし、ありのままの自分を着飾ったり盛ったりして生き方を肯定したいし、してあげたい。自分たちはやれる、自信がある、って思えれば気持ちは上がるし、それが“擬似的なバブル”のようなものだとしても私はつくっていきたい。今回の展示はそんなモチベーションも持ちながら取り組んでいました。そんな盛って彩られたバブルでも、続けていけばいつか本物に変わる瞬間があるんじゃないかと。
この時代だからこそつくられるものや感じられるものがあって、世の中がどうだろうがそれぞれの世代が自分の体験に価値を感じて毎日を過ごしていく。そんな街の盛り上がりの中で、たくさんのものが生まれ、変化して、受け継がれて、文化となる。それに影響された次の若い人たちが「自分も何かやってみようかな」と思える。今回の展示や私の活動が、そこに少しでも貢献していたとしたら、嬉しいです。これからも挑戦してつくっていきたいと思います。
