PROJECT LIFE LAND SHIBUYA
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エリア特化型アプリ「SHIBUYA MABLs」が、
渋谷ワーカーたちの出会いを混ぜる。

大西 里菜/永田 篤広/岡本 勇樹|MABLs PJ Team

2024.03.28

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東急不動産が手がけるコミュニティアプリ「SHIBUYA MABLs(シブヤ マブルス)」が2024年4月に本格リリースされる。渋谷のワーカー同士がつながり合い、新たなアイデアやコミュニティが生まれる可能性や、来街者が「渋谷」を実感する仕掛けについて、MABLsの開発メンバーに話を聞いた。

音楽やファッション、アートといったユースカルチャーの発信地として名高い渋谷。多様な人々が行き交い、混ざり合うことで、さまざまな「流行」や「文化」が生まれてきた。

そうした街から放たれるエネルギーが、新進気鋭のスタートアップやベンチャー企業を渋谷の地に引き寄せ、国内でも有数のビジネスパーソンやクリエイティブワーカーの集積地となっているのだ。

しかし、渋谷周辺にオフィスを構えるワーカー同士が有機的に交流する機会は少なく、個々の繋がりや限られたビジネスの付き合いの中に閉じられていた。また、コロナ禍でテレワークが浸透したことで、社内同士のメンバーで親睦を深める場も減少し、人間関係の希薄化が浮き彫りになってきている。

こうした課題を解決し、社内外におけるコミュニケーション活性化や、今までは街ですれ違っていた渋谷ワーカーとの“出会い”を促進し、新たな渋谷コミュニティの醸成に取り組むのが「SHIBUYA MABLs(シブヤ マブルス)」である。

MABLsのキャッチコピーは「渋谷と混ざれ。」だ。

ミックスカルチャーが渦巻き、刺激的な体験を引き立てる街のグルーヴ感は、“渋谷らしさ”を体現する魅力そのものである。そんな渋谷に集積する、多層的な価値観やスキルを持ったワーカー同士が混ざり合えば、その可能性はまさに無限大と言えるのではないだろうか。

「MABLsは、渋谷の街のあり方をアップデートしていく」

MABLsの開発・クリエイティブに携わった、株式会社DriveX代表の永田 篤広氏、株式会社LIBERATE代表の岡本 勇樹氏、そしてプロジェクトをリードする東急不動産株式会社の大西 里菜氏に、MABLsが目指す渋谷の未来について伺った。

(左)永田 篤広 氏/DriveX、(中央)大西 里菜 氏/東急不動産 、(右)岡本 勇樹 氏/LIBERATE。
(左)永田 篤広 氏/DriveX、(中央)大西 里菜 氏/東急不動産 、(右)岡本 勇樹 氏/LIBERATE。

ハードとソフトの両面から広域渋谷の価値を創出する

─まずは、MABLsの開発プロジェクトを立ち上げた背景について教えてください。

大西 : 東急不動産は渋谷駅を中心とした半径2.5km圏内を「広域渋谷圏(Greater SHIBUYA)」と定め、2010年代からさまざまな再開発を行ってきました。東急不動産では、昨年に竣工した「Shibuya Sakura Stage」に続き、2024年4月には神宮前交差点に新たな商業施設「東急プラザ原宿「ハラカド」」のオープンを予定しています。

大型プロジェクトが次々と完成を迎えるなかで、施設や建物の開発にとどまらずまちのにぎわいを生むまちづくりを、これから考えなければならないフェーズに差し掛かっていると感じています。

─「まちのにぎわいを生むまちづくり」とは具体的にどういうことでしょう?

大西 : 東急不動産はこれまでBtoBtoC事業を中心に展開しており、テナントに入居してもらう企業の方々との接点は多く持っていました。ですが、そこで働く一人ひとりのワーカーとの接点は、ほとんど持てていなかった。

これからのまちづくりの観点では、実際に渋谷で働く人たちの行動傾向や趣味嗜好をしっかりと把握し、それをまちづくりに還元していくのが重要になってきます。こうした背景のなか、まちづくりのDX化を推進するひとつの手段として、2年ほど前からコミュニティアプリ「SHIBUYA MABLs」の構想を練ってきました。

MABLsは「繋がる」「おトク」「見つかる」という3つの特徴で渋谷におけるコミュニティ醸成のきっかけを提供。渋谷在住・勤務の法人および個人を対象に、社内外のワーカーのつながりや交流を促進し、渋谷でおすすめのお店情報も、お得なチケットとともに発信する。
MABLsは「繋がる」「おトク」「見つかる」という3つの特徴で渋谷におけるコミュニティ醸成のきっかけを提供。渋谷在住・勤務の法人および個人を対象に、社内外のワーカーのつながりや交流を促進し、渋谷でおすすめのお店情報も、お得なチケットとともに発信する。

─不動産会社がコミュニティアプリを開発するというのは、あまり前例がないようにも感じます。

大西 : そうですね、今まで建物というハードウェアの設計や開発を事業の中心に据えてきた東急不動産は、社内風土として緻密な予測と計画を立てて遂行するウォーターフォール型の文化が根強くあります。しかし、今回のMABLsの開発は、リアルタイムなフィードバックと改善を細かく繰り返すアジャイル型で進めていくことをチームのスタイルにしていたため、そこの理解を社内で受け入れてもらう必要がありました。「答えを持っているのは自分たちではなく、ユーザーである」という考え方を浸透させながら、細やかなサイクルと柔軟な視点でプロダクト開発を進めていきました。

渋谷で働く30万人のワーカーが交わり、つながるために

─MABLsは渋谷の街に集うワーカー同士の繋がりを深め、職場を超えた交わりを生んでいくアプリだと思いますが、具体的なコンセプトや目指す世界観はどのようなものでしょうか?

事業開発者の永田 篤広 氏。新規事業創出を得意とする“超”伴奏型事業化集団、株式会社 DriveX 代表。
事業開発者の永田 篤広 氏。新規事業創出を得意とする“超”伴奏型事業化集団、株式会社 DriveX 代表。

永田 : このMABLsのプロジェクトの目的として、街の回遊性を高め渋谷を盛り上げていくためのアプリをつくるという前に、「多様性に富んだ渋谷の魅力を多くの人に知ってほしい」という上位概念がありました。渋谷で働いている人やお店、 最先端の流行や新しいカルチャーが放つ街のエネルギーを、いかにアプリを通して届けるかという視点でコンセプトを設計していきました。

─エリアや街に特化した、しかも情報密度の高い渋谷を舞台にしたコミュニティアプリというのは、つくりがいもありつつ設計が難しそうです。

永田 : 最初の頃は、「渋谷の良さを伝えるアプリ」を考えることに四苦八苦しましたね。単にお店のクーポンを発行してお得感をユーザーに届けたり、おすすめの飲食店を紹介するだけでは、既存のサービスやアプリと差別化できない。

飲食店との「出会い」だけではなく、渋谷で働く30万人のワーカーに着目し、人との「交流」を促進する方向性へと開発の舵を切りました。渋谷はIT・クリエイティブ系を中心としたベンチャー企業の集積数が日本一を誇っており、潜在的なニーズとして「ワーカー同士の出会いや交流」が求められていることから、コミュニティアプリとしてサービスを提供していく軸を固めていきました。

MABLsは、企業の社内コミュニケーションの活性化やエンゲージメント向上を目的の一つとしている。渋谷来訪時に付与されるポイントによる出社の促進や、ポイントをためることで得られるチケットを店舗等で共同利用することにより交流のきっかけを提供。  毎月店舗で利用できるチケットが付与されるサブスクリプション形式のプランを法人プラン・個人プランで用意している。
MABLsは、企業の社内コミュニケーションの活性化やエンゲージメント向上を目的の一つとしている。渋谷来訪時に付与されるポイントによる出社の促進や、ポイントをためることで得られるチケットを店舗等で共同利用することにより交流のきっかけを提供。 毎月店舗で利用できるチケットが付与されるサブスクリプション形式のプランを法人プラン・個人プランで用意している。

─渋谷というエリアにあえて限定しているからこそ、リアルな距離感の交流が期待できると。

永田 : 従来では、人脈づくりやビジネスチャンスを求めてイベント等に参加しても、名刺交換してそれっきり、なんてことも多いですよね。MABLsはビジネスの持続的な関係性を気軽に創出していけることを目標にデザインへ落とし込んでいきました。

─岡本さんはどのような切り口でプロダクトをデザインされたのでしょうか?

サービス設計・VI・UIデザインを担当する岡本 勇樹氏。株式会社LIBERATE 代表取締役。デザインを軸とした包括的なアプローチで、企業の新規事業創出・既存事業推進を支援する。
サービス設計・VI・UIデザインを担当する岡本 勇樹氏。株式会社LIBERATE 代表取締役。デザインを軸とした包括的なアプローチで、企業の新規事業創出・既存事業推進を支援する。

岡本 : 私がMABLsのプロジェクトに参画したのは、コミュニティアプリとしてピボットさせていくタイミングで、これから土台を築いていく段階でした。なのでまずは、渋谷のワーカーが出社して帰社するまでに、どのような体験を提供することでどんな交流が生まれるのか、渋谷への出社率を高めるために街の魅力をどう伝えていけばいいのか、そういったプロダクトのユーザーシナリオを作成するところから始めました。渋谷という街に根差し、人・企業・場所が混ざり合い強固なコミュニティになっていく手助けができる、手触り感のあるVI/UI/UXを目指し設計・開発しました。

永田 : 岡本さんにはデザインの観点からユーザーへのアプローチを考えていただき、自分はどちらかと言えばマーケティングの視点から仮説を立て、ユーザーヒアリングしていくアプローチを行いました。2人ともアプローチは違えど、このMABLsはお互いの最大公約数の総和がうまく生かされたプロダクトになっていると感じています。

コロナ禍で希薄化した現代のワーカーのコミュニケーション

─渋谷を表すキーワードは「エンタメ」や「ダイバーシティ」、「カルチャー」といったものが挙げられますが、どのようなテーマを定めて開発を行ってきたのでしょうか?

岡本 : アプリとしてのコンセプトは「SOMETHING ALWAYS HAPPENS/必ず何かが起こる」です。社内コミュニケーションが起こったり、街で新たなお店や人との出会いが生まれたり。アプリ・街を通して、行けば何かが起きる、そんなワクワク感を醸成するような体験・機能・ビジュアルを提供しようと考えました。

ビジュアルのムードとしては、初めは「DYNAMIC ROMANCE」というテーマを掲げていました。潜在的に感じている「もっと誰かと話したい」「せっかく街に出たなら楽しみたい」といった感情を、アプリを通して解放できる。そんなムードをつくり上げたいと思っていましたが、議論する中でよりオープンに人が混ざり合っている様をダイレクトに表現する方が良いと感じ、「DYNAMIC MOTION」というテーマへとアップデートしていきました。

永田:アプリ開発前に捉えていた課題の仮説として、社内と社外の人間関係が満たされていないということでした。SNSはある種、広く浅く繋がるツールにすぎず、関係性を深めるものではないわけです。特にコロナ禍がひとつの転換期になっていて、リモートワークが当たり前になったことによる「社内コミュニケーションの希薄化」が顕著になりました。

渋谷で働くワーカーを対象に当社において実施したアンケート調査(2022年、約100名を対象に実施)では、コロナ禍以降、「人との出会いや繋がりをより大切に感じる」「コミュニケーション不足が業務の障害になる」と回答するワーカーが増加している。
渋谷で働くワーカーを対象に当社において実施したアンケート調査(2022年、約100名を対象に実施)では、コロナ禍以降、「人との出会いや繋がりをより大切に感じる」「コミュニケーション不足が業務の障害になる」と回答するワーカーが増加している。

─社員全員が毎日出社・交流することが当たり前でなくなった今、効率的である一方で偶発性が失われたというのは大きなイシューですよね。

永田 : こうした課題があるなか、既存のSNSでは、近すぎず遠すぎない絶妙な距離感を求める現代のワーカーのニーズは満たされていないように感じました。なので「同じ街で暮らす面白いワーカーとつながりたい」というニーズを満たせれば、このアプリのオリジナリティが出せるのではと感じました。

岡本 : コミュニティアプリをつくる上で、最も重要になるのが“クローズド感”です。ユーザーにアプリを利用してもらう際、アプリ上でいかに多くやり取りしてもらえるかが肝になるわけですが、一般開放したコミュニティアプリではユーザーの利用は促しづらいと予想していました。

ただし渋谷という街にあえて限定することで、特有の人・特有の企業・特有の場所、そしてその親和性により密なコミュニケーションが生まれるのではと思ったのです。東急不動産さんは、渋谷に商業施設やオフィスビルといった多くのアセットを持っているので、渋谷という地域に特化したクローズドコミュニティ向けのアプリを提供する事業者としては最適だと感じました。今後は、MABLsをどれだけ渋谷ワーカーに訴求できるかが重要になると捉えているため、東急不動産さんの今後の展開と活躍にも期待しています。

「渋谷と混ざれ。」の世界観を体現するためのユーザーシナリオ

─MABLsの基本的な機能や使ってほしい利用イメージがあれば教えてください。

大西 : MABLsの利用動線として、法人契約と個人利用の2パターンがあります。前者は社用メールアドレス、後者は個人メールアドレスでログインするイメージですね。

プロフィールは実名登録、アイコンは顔写真を推奨していて、プライバシー設定は柔軟に変更できるように設計してあります。主な機能にはフレンド追加機能、ポイント獲得機能、マッチング機能がありますが、「ユーザーの疎外感」を生まないように心がけ、渋谷で働くワーカーの多様なニーズに応えられるようにユーザー体験の設計を行いました。オフィスに出社すると、アプリのTOP画面にアイコンが表示され、同僚やフレンドに「渋谷で働いている」ことがビジュアル化されます。このような仕様にすることで、常にランチや夜飲みに誘えるきっかけをつくり、同僚やフレンドと繋がる、交わる体験を届けられたらと考えています。

PJをリードする大西 里菜 氏。東急不動産 渋谷開発本部 イノベーション企画・推進G
PJをリードする大西 里菜 氏。東急不動産 渋谷開発本部 イノベーション企画・推進G

─渋谷の街の中で、リアルタイムにアクティブになっている人同士が可視化できるわけですね。

大西 : また、興味のある職種、趣味、年代などをフィルタリングしていくマッチング機能では、ユーザー同士がマッチングすると、同じ渋谷で働く者同士ゆえに、近くのカフェなどですぐに会って情報交換できるのが大きな特徴です。

─2024年の4月からの本格リリースを予定しているMABLsですが、まず届けたいユーザーのイメージなどはありますか?

岡本 : 情報感度の高い若年層の方々ですね。このアプリを通して、渋谷ワーカー同士の繋がりや関わりを促進し、そこから面白いカルチャーが生まれたらなと思っています。一方で、アプリのユーザビリティを考えていく上で心がけたのは「ターゲットを絞りすぎない」ことでした。

ユーザーのペルソナ設定を中心にアプリの体験を設計をしていくと、どうしてもニッチなものになってしまい関係ないと感じる人にはアプリを利用する価値を見出せない。そのためユーザーごとにシナリオを作成して、オープンとクローズドを行き来できる機能や体験をユーザー自身が選択できるように落とし込みました。「渋谷と混ざれ。」というキャッチコピー通り、多様なライフスタイルを送る渋谷ワーカーだからこその要素やストーリーを詰め込んで、誰もがMABLsを使いたくなるような世界観の醸成を意識しています。

渋谷の来街者へアプローチできる、アプリを超えた「メディア」へ

─MABLsが浸透することで、渋谷にどのような変化をもたらしたいですか?

永田 : まずは渋谷の企業に導入してもらい、身近な人たちとの交流を目的に利用してほしいですね。オフィスへ出社し、アプリ上で誰が来ているのかを確認して、「誘う・誘われる」ようなコミュニケーションが自然に生まれたら嬉しいです。社内のクローズドなコミュニティ内でも、社外の渋谷ワーカーとのマッチングにも使える仕様になっているため、自分が望む形で生活に落とし込みながら活用してもらうのがいいのではないでしょうか。

─最後に、今後のアプリの展開や拡張について考えていることを教えてください。

大西 : 将来的には、MABLsが渋谷にいる人たち全てにアプローチできる「メディア(媒体)」を目指したいですね。渋谷を一緒に盛り上げてくれるIPホルダーや、MABLsと親和性の高い事業を展開している企業と共創し、新たなまちづくりのコンテンツを発信していく。MABLsが渋谷のメディアになることで起きる副次的な効果こそが、渋谷のエリア価値向上につながっていくと考えています。

永田 : BtoBの文脈では企業導入を進めていき、MABLsを活用した社員同士の垣根を超えた交流を促進し、社内エンゲージメントの向上に寄与するユースケースづくりをしていく予定です。

そしてBtoCの文脈では、イベントやタイアップ企画を通して、まずはエンジニアやデザイナーといったクリエイティブ領域のワーカーに訴求するとともに、ビジネスインフルエンサーも巻き込みながら、アプリの認知度向上やダウンロードにつなげていきたいですね。既存のSNSとマッチングアプリの中間の位置をMABLsが取れるように、これからも尽力していければと思います。

SHIBUYA MABLs Official HP
https://mabls.jp/

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Text:Daisuke Kotajima/Photo:Shoichi Fukumori