カドでばったり、ばったりカドで。「カド祭り」だけの出会い
開業からおよそ半年が経過した「ハラカド」に訪れると、地下1階の「チカイチ」や、飲食フロア「HARAJUKU KITCHEN&TERRACE」は常連と思しき人々で満員御礼。ショッピングや仕事後の“たまり場”が不足していた印象の原宿だが、すでに「ハラカド」がこの街を拠点とする人たちにとっての憩いの場となっているようで感慨深い。

「カド祭り」は、そんな「ハラカド」と、交差点を挟んだ対角線上に位置する「オモカド」が本格的に連動した初のイベントだ。両施設に集うクリエイターや企業によって構成・運営される「ハラカド町内会」が中心となり、館内外の店舗やクリエイターを巻き込みながら、季節ごとのテーマに合わせたコンテンツを全館フルに使って展開していくという。「ハラカド」開業前から温めていたコンセプトについて、大木さんは次のように語ってくれた。
「そもそも『ハラカド』が目指しているのは、クリエイターが住み着くような『創造施設』なんですよね。ですから、バーゲンセールや大特価! を打ち出してお客さんを呼び込むのは違うなと。訪れる人たちの刺激になって、定期的に通ってもらって、そこから広い意味でのコミュニティが生まれていく……というのが理想です。開業前後はどの商業施設も注目を浴びると思うんですけど、時間の経過と共にどうしても鮮度は下がりますから、ハラカド/オモカドが今どんなことをやっているのか? を、『カド祭り』を通して世の中に発信していけたらと考えています」

記念すべき第1回目のテーマは「カドでばったり、ばったりカドで。」ということで、当日のハラカド/オモカドでは様々な出会いがあった。まずメインエントランスには、両施設内の3店舗でお買い物をするとチャレンジできる巨大ガチャが来場者をお出迎え。「カド祭り」のために制作されたロゴ入りのユニフォーム(白衣)をまとったスタッフや、提灯の装飾もお祭り気分を高めてくれる。

また、「オモカド」5階のコミュニティ商店街「LOCUL(ローカル)」ではガレージセールとピクセルアートフェスが、6階「おもはらの森」では音楽とスポーツを融合させるクリエイティブ集団「JAZZY SPORT」によるストリートライブが開催と、芸術の秋を堪能できるコンテンツも充実。思いがけない掘り出し物の古着やレコード、あるいはアーティストと“ばったり”出会えるのも、「カド祭り」の魅力なのだろう。

東京QQQによる神出鬼没なパフォーマンス
「カド祭り」最大の目玉は、「ハラカド」で繰り広げられた「東京QQQ(トーキョーサンキュウ)」によるパフォーマンスだ。様々な体形とバッググラウンドを持つメンバーの中には、映画『PERFECT DAYS』(2023年)などで俳優として活躍するアオイヤマダさんらも所属。神出鬼没な9名のパフォーマーがゲリラ的に各階のフロアを練り歩くと、極彩色の衣装とダンスに魅せられた来場者から驚きの声が上がる。なお、衣装はコスチューム・アーティスト=ひびのこづえさんが「カド祭り」のために制作したオリジナルだという。



「ハラカドで、『東京QQQ』に出会う。」と銘打ったこのパフォーマンスは、大木さんいわくセレンディピティ(思いもよらなかった偶然がもたらす幸運)が構想にあったそうだ。
「商業施設の空間全体を使ったパフォーマンスもそうですが、そこに絡めたテナント施策が新しかったんじゃないかと自負しています。実際に現地で見てくれた人や、SNSの反応では『こんなの見たことがない!』っていう声が大半でしたね。いい意味で消化不良というか、「何なのこれ?」っていう投稿もあったりして。あとこれは褒め言葉と捉えているんですけど、『東京コレクション』のようなファッションショーだと思った人もいたらしくて。『クリエイティブ過ぎて理解が追いつかない!』みたいな(笑)。今まで見たことないものを提供する――という想いから『カドでばったり、ばったりカドで。』というテーマを設けたので、そういったリアクションがもらえたのは嬉しかったです」



多様性を体現したメンバー、「東京2020」との共通点
東京QQQによるパフォーマンスは、4階「ハラッパ」で披露された全員集合のクライマックスも圧巻だった。《カドって痛いの?》《笑うカドには福来る》――といった「カド」にまつわるフレーズが飛び交う朗読と、コンテンポラリーからポールダンスまで何でもありの円舞は、デジタルインスタレーション「太陽の焚き火」を中心に構築された振り付けや演出とも相まって、異世界の儀式に迷い込んだような錯覚すら覚える。

実は、今回の座組は「東京2020」で話題を呼んだ公式文化プログラム「わっさい」と多くの共通点があるという。
「僕とアオイちゃん、高村月くんの3人は『わっさい』からの繋がりがあったんです。そのときも衣装デザインをひびのさんにお願いしていて、東京QQQはこのプログラムをきっかけに生まれました。彼女たちのパフォーマンスをご覧いただければわかるように、非常に多様性のあるメンバーが揃っているじゃないですか? これって、原宿の街であったり、広く括ると渋谷であったり、東京がきちんと発信していくべきものを体現しているなと。しかも、それを押し付けがましくなく……と言いますか、しっかりとクリエーションされたものとして伝えていけるチームとして、『カド祭り』にふさわしいと思いオファーさせてもらいました」


原宿に求められていたグレーゾーン
「ハラカド」全館を舞台にしたパフォーマンスは、水曜日のカンパネラをはじめ総勢約300名が出演したショートフィルム「HARAKADO since 2024.4.17」の延長線上にあると言えるだろう。幅広いプレイヤーを巻き込んでいくことで、彼ら自身も積極的にSNSで発信し、それが次世代を担うクリエイターの卵たちの目に触れる……こうした波及効果には大木さんも確かな手応えを感じたようで、何度も「共創」という言葉を交えていたのが印象的だった。
「これも東京QQQと一緒にやりたいと思った理由なんですが、既存のコンテンツをハラカド/オモカドに持ってくるんじゃなくて、『カド祭り』のためにオリジナルのプログラムを仕立ててもらいました。KUMIさんのエレベーターガール風のセリフや朗読の内容も、『カドでばったり、ばったりカドで。』というコピーを彼女たちなりに解釈したんでしょうね。新しいものって怖いし、どんな反応が返ってくるかわからないけど、前例がないからこそやってみよう! というか。その実験精神こそが『カド祭り』の原点です。それに、お祭りをつくること自体が『共創』ですから、今後は僕らだけではなくて、もっともっとテナントのみなさんも巻き込んでいければと思っています」

「ハラカド」全体のクリエイティブや、会員制のラウンジ「BABY THE COFFEE BREW CLUB」も手がける大木さん。最後に、「ハラカド」開業から約半年を経て、ハラカド/オモカド両施設の、そして原宿という街にどんな可能性を感じているのか聞いてみた。
「やっぱり、原宿とか表参道に対してみんなが期待する想いというのがあって。そことの乖離を強く実感するようになりました。3階フロアの『STUDIO SUPER CHEESE』(夜から角打ちができるフォトスタジオ)は連日盛況なんですが、『原宿でこんなに遅くまで溜まれる場所なかったよね!』と言ってもらえますし。昔の原宿って目的もなくブラブラするのが楽しかったのに、最近そういう感覚が欠けていたのかなあって。あと、今の世の中は白黒ハッキリさせたがる風潮があるので、その間にある遊びの部分というか、余白。実際に『ハラカド』が開業して、常連になってくれるお客さんも増えていく中で、僕らも頭ではわかっていたけれど、原宿に求められていたのってこういう曖昧さ……グレーゾーンだったのかなと。それを最新の商業施設がチャレンジしているっていうギャップが面白いですよね(笑)」

テナントと来場者それぞれのメリットを共存させるには、ハラカド/オモカドはまだまだ志半ばだと語る大木さんだが、「クリエイティブ、ビジネス、お買い物……それらが幸せな融合をしていけたら。そういう兆しみたいなものは、この半年間で見えてきた気がします」と自信を滲ませた。すでに第2弾も動き始めているという「カド祭り」の存在は、きっとその一助となってくれるはずだ。